2019/02/22
「全農ET研究所における牛体内胚の生産について」
浦川 真実
全農ET研究所は、前身の牛ETグループ(全農飼料畜産研究所、つくば市)が、1999年1月に現在の上士幌町に移転し、当初「全農ETセンター」として開所した。その後、名称変更を経て現在に至る。主な業務は、黒毛和種およびホルスタイン種牛からの体内胚の製造および供給、ならびにホルスタイン種を中心とした受胚牛への胚移植による妊娠牛の製造および供給である。平成29年度は約25,000個の体内胚を、また約1,100頭の妊娠牛を全国に供給している。
今回は、新たに取り組み始めた農家の庭先での採卵と移植を含め、ET研究所で行なっている牛体内胚生産の取り組みについて紹介する。
体内胚の製造および供給
ET研究所では、約500頭の黒毛和種供胚牛を常時繋養している。平成29年度は1頭あたり年3~5回の採卵を実施している(平成29年度、平均4.1回/頭)。体内胚は、供胚牛や種雄牛の血統を考慮して遺伝病が発症しない交配を考慮すると共に、胚の洗浄、凍結、輸送など品質管理に細心の注意を払い、製造・供給している。平成29年度は、ET研究所本場(上士幌)と農家採卵(後述)を合わせて30,919個の胚を製造した。
平成11年度より供給した体内胚の推移を図1に示す。
平成11年度より体内胚の供給数は順調に推移していたが、平成19~22年度に横ばいとなった。平成23年度より再び増加に転じて現在に至っている。
体内胚の移植成績
ET研究所本場(上士幌)では、ホルスタイン種を中心とした受胚牛を常時約1,000頭、繋養して、移植を実施している。また、研究所本場および分場(北日本、東日本、九州)の近隣地域では、所員が農家へ直接訪問して、受胚牛の同期化から移植まで一連の作業を行なっている。平成27~29年度において、研究所本場(上士幌)と農家の庭先において移植した成績を図2に示す。
場内(未経産牛)では70%、野外(主に経産牛)では60%の受胎率を目標に移植を実施している。
供胚牛の育種改良
ET研究所では、繋養している供胚牛群の遺伝的な能力の底上げを図るために、枝肉形質に関するゲノミック評価を活用した改良を進めている。遺伝的に能力の高い牛の後代牛を増産して導入を加速させると共に、遺伝的に能力の低い牛を優先的に淘汰しながら体内胚製造を進めている。
農家採卵事業
生産者、JAおよびET研究所の3者が協力して、生産者の所有する遺伝的に優良な雌牛から体内胚を製造し、全国に供給する事業を平成26年度より北海道内において、また翌年から全国各地でスタートした。農家採卵事業による胚の製造個数の推移を図3に示す。
平成30年度より、北海道内での農家採卵業務は、グー・エンブリオ・テクノロジー株式会社(音更)と提携して、製造数の拡大を進めている。
農家採卵事業を活用した地域改良の促進
生産者の庭先で採取した胚を、その地域内の改良に積極的に役立ててもらうために、農家採卵日に発情を同期化した地元農家の受胚牛に移植する事業も全国で実施している。
以上、ET研究所では、今後も遺伝的に優れた供胚牛群の造成を目指すと共に、より受胎率の高い高品質な体内胚の製造を目指す所存である。
略歴
1990年03月 帯広畜産大学家畜生産科修士課程修了
1990年04月 ㈱ヤクルト本社中央研究所 入社
1998年11月 全国農業協同組合連合会(JA全農) 入会
2004年12月 学位取得(医学)
2017年04月 全農ET研究所 研究開発室 室長